廊下の、あの音を止めるのに、引っ越す必要はありません

引っ越さずに廊下の音を止められることを示す見出し画像

音が鳴ります。

洗面所の手前、いつも同じ場所です。歩くたび、みしっと鳴る。気づいたのは、たぶん2年前。最初は気のせいだと思っていました。いまは、そこを踏むときだけ、少し体が構えます。

このページは、築20年を過ぎた戸建てにお住まいで、床のきしみや壁の汚れが気になりはじめた方に向けて書いています。まだ雨漏りはしていない。壊れてもいない。ただ、確実に何かが進んでいる。 その段階の方です。すでに水が漏れている方、建て替えを考えておられる方には、別の話が要ります。ここでは扱いません。そして、直したい気持ちはある。工事の必要も分かっている。止まっているのは、別の理由です。

僕たちがこの進め方に変えたのは、打ち合わせの席で同じ言葉を何度も聞いたからです。「やっぱり今年はやめておきます」。

そのたびに、直す気が無いわけではないと分かっていました。図面を広げ、写真を撮り、家じゅうを見て、金額を出す。そこまでやって、止まる。しばらくは、金額のせいだと思っていました。ですが、値段を下げた提案を持っていっても、返事は変わりませんでした。あるとき、施主のほうから理由を聞かせていただきました。「工事のあいだ、うちの荷物と犬をどこへ置けばいいのか、それが分からないんです」。 費用の話ではありませんでした。仮住まいを探し、荷物をまとめ、郵便物の転送を出す。工事そのものより、そちらのほうが重い。同じことを、その後も何度も言われました。

理由は、こちらの側にありました。最初に置いた前提が、大きすぎたのです。

床が鳴っているのは廊下の3メートルです。ところが「まず全体を見ましょう」と言った瞬間、話は家じゅうの規模になります。金額は三桁になり、工期は数週間になり、仮住まいの話が始まる。直したかった範囲と、見積もった範囲が、最初からずれていました。 職人の動きに無駄が出ないという理屈は正しいのですが、それは工事の効率の話であって、暮らしの話ではありません。効率で得た分より、暮らしをたたむ負担のほうが大きい家は、たくさんあります。

だから、範囲を先に小さくしました。部屋を1つずつ仕上げます。引っ越しは要りません。 この進め方が成り立つのは、住宅の内装工事が本来「部屋単位で完結できる」構造をしているからです。基礎や屋根と違い、床・壁・建具は部屋ごとに区切って施工できます。区切れないのは、配管や配線が部屋をまたぐ場合だけで、そこは経路を先に確認しておけば分けられます。まとめて工事する必要があったのは、足場や重機を使う外まわりの工事のほうです。 内装にその制約を持ち込んでいたのは、業界の習慣であって、構造上の要請ではありませんでした。

  • 2年前から鳴っている床を、まだ直していない方へ。 放っておいたのは、面倒だったからではありませんでした。工事のあいだの暮らしが読めなかったからです。どこへ移るのか、荷物はどうするのか、いつ戻れるのか。そこが読めないものを、人は決められません。この進め方では、あなたは家にいたままです。荷物も動かしません。読めない部分が最初から無いので、決めるための材料が金額だけになります。
  • 「そのうち直そう」が3回続いた方へ。 3回とも、直す気はありました。止めたのは決断力ではありません。相談するたびに話が家じゅうの規模になり、そのたびに考えることが増えたからです。人は、考えることが増えると先送りします。規模を先に小さくすれば、同じ話が3分で終わります。 決めるのが下手なのではなく、決める対象が大きすぎただけです。
  • 一括見積もりサイトで数社に相談し、そのままにしている方へ。 どこも悪くありません。あの仕組みは「全体を見る」ことから始まる設計になっているだけです。廊下の3メートルを直したい人には、入口が大きすぎるのです。悪い会社に当たったわけでも、あなたの伝え方が悪かったわけでもありません。入口の大きさが、直したい範囲と合っていなかった。 それだけのことです。
  • 共働きで、平日に家を空けている方へ。 立ち会えないから頼めない、と考えておられるかもしれません。鍵をお預かりして進め、その日の作業内容と写真を毎日お送りする形にできます。在宅の必要はありません。帰宅したときには、その日の分が片づいています。 翌朝、また続きが始まります。あなたが見るのは、朝と夜の家だけです。
  • 高齢のご家族と同居されている方へ。 仮住まいへの移動は、若い世代が思う以上に負担になります。慣れた動線が変わるだけで、転倒が増えることもあります。住み慣れた場所から動かさずに直せるかどうかは、工事の内容そのものより大きな問題です。ここを外せる進め方かどうかで選んでください。 工法の説明より先に、確認すべきことです。
  • ペットがいるご家庭へ。 仮住まいの条件が一気に狭くなるのは、この理由が多いです。ペット可の物件は数が限られ、短期となるとさらに減ります。家にいたまま、部屋を1つずつ区切って進められるなら、その条件は要りません。移動のストレスもかかりません。 音の出る日だけ、別の部屋にいていただければ足ります。
  • 一度リフォームで嫌な思いをされた方へ。 追加費用、伸びた工期、返ってこない連絡。同じ業界の話として、僕たちも聞きます。ですから、このページに書いたことは全部、見積書の紙の上で確認できるようにしてあります。疑ってお読みください。 疑いながら読んで、書面と突き合わせられる内容にしてあります。信じてくださいとは言いません。
  • まだ具体的に困っていない方へ。 いま困っていないなら、それがいちばん良い時期です。困ってからでは、直す範囲が広がっています。床の下地は、湿気を含んだ状態が続くほど柔らかくなり、接している壁の内側へ、そして柱へと移っていきます。このページは、その手前の方に向けて書いています。 手前で読んでいただけたなら、それがいちばんの節約です。
  • 建てたときの図面が見つからない方へ。 築年数が経つと、よくあることです。引っ越しのときに紛れたり、建てた工務店が無くなっていたり。図面探しから始める必要はありません。現場で測って、その場で書きます。 無いことを前提に進められます。探して見つからないと、それだけで気持ちが折れます。
  • 「うちはまだ大丈夫」と思っておられる方へ。 その判断は正しいかもしれません。ただ、確かめる方法があります。道具も費用もかかりません。廊下を端からゆっくり歩いて、音が鳴る場所に印をつけるだけです。 やり方は、このページの最後に書きました。印がつかなければ、まだ大丈夫だったということです。

「まず全体を見ましょう」と言われて、止まりませんでしたか

「まず全体を見ましょう」で止まった方へ、と書かれた見出し画像

止まった理由は、金額ではありません。見積もりの範囲が、あなたの直したかった範囲より広かった。 それだけです。

一括見積もりのサイトで、何社かに相談された方は多いと思います。そして、たいてい同じことを言われます。「まず家全体を見せてください」。悪気はありません。全体を見ないと正確な金額が出せないのは、その通りです。ですが、その一言で、話はあなたの手を離れます。

以前、廊下の床を直したいという方から相談を受けました。伺って、家じゅうを見て、水まわりも見て、屋根まで上がりました。出した見積もりは三桁万円でした。丁寧な仕事をしたつもりでした。数日後、電話でこう言われました。「うちは、そこまでのつもりではなかったんです」。その方が直したかったのは、洗面所の前の3メートルでした。 こちらは、頼まれていない範囲まで見て、頼まれていない金額を出したのです。しかも、それを親切だと思っていました。相談を受けた側が、話を大きくしていました。同じことが、その後も何度か続きました。断られた理由を、こちらが取り違えていたのです。

仕組みとして、そうなりやすい理由があります。足場を組む工事、壁を開ける工事は、一度にやったほうが単価が下がります。 これは事実です。ですから提案する側は、自然とまとめる方向へ寄せます。悪意ではなく、合理性です。ただ、その合理性は「工事の効率」の話であって、「あなたの暮らし」の話ではありません。仮住まいの家賃、敷金、引っ越し代、荷物の一時保管、郵便物の転送、通学や通勤の経路。これらは見積書に載りません。載らないから、比較の対象から漏れます。 効率で下がった分より、載らない費用のほうが大きくなることは、珍しくありません。そして、その差額を負担するのは施主です。

だから、範囲を決めるのは施主の側であるべきです。では、その範囲は何を基準に決めればよいのか。 範囲を決める権利が施主にあることは、契約の形からも分かります。工事請負契約では、何をどこまで施工するかを定めるのは注文者です。ところが実務では、見積もりを出す側が範囲まで決めてしまい、施主はその中から選ぶだけになっています。選択肢を出す側が範囲を決めていれば、施主の意思は最後まで反映されません。 ここを取り戻すだけで、金額も工期も、自分の都合に寄せられます。

取り戻すのは難しくありません。相談の最初に「今回はここだけを見てください」と言えば済みます。断られることもありますが、それは相性の問題です。範囲を指定されて受けられない会社は、範囲を指定しない工事も、たぶん合いません。 最初の一言で分かるのは、こちらにとっても助かることです。

  • 見積もりの金額を見た瞬間に、話が終わった経験はありませんか。 あれは高すぎたのではありません。範囲が広かったのです。同じ職人が、同じ単価で、範囲だけを狭めれば、数字は変わります。値引きの交渉をする必要はありません。交渉すべきなのは金額ではなく、範囲のほうです。 ここを取り違えると、安い会社を探す旅が始まります。旅の終わりに残るのは、疲れだけです。
  • 「ついでにここも」と言われて、金額が倍になったことはありませんか。 提案する側に悪意はありません。足場を組むなら、壁を開けるなら、一度にやったほうが安い。理屈は正しいのです。ですが、その「ついで」を決めるのは、あなたのはずです。決める前に金額だけが増えていくと、判断のしようがありません。 ついでの提案は、断ってよいものです。断っても、本体の工事は変わりません。
  • 仮住まいを探しはじめて、そこで止まった方は多いです。 家賃、敷金、礼金、引っ越し代、荷物の一時保管。工事費とは別に、数十万円が動きます。しかも短期の物件は割高です。この金額は見積書に載りません。載らないから、工事費だけを見て「これなら払える」と判断してしまいます。 そして、探しはじめてから総額に気づきます。気づいた時点で、たいてい止まります。
  • 荷物をまとめる時間を、計算に入れていましたか。 押し入れ、納戸、物置。動かすものが多い家ほど、工事より前の作業が重くなります。しかも、この作業は業者がやってくれません。平日の夜と週末を、何週間か使うことになります。 ここで気持ちが折れる方を、僕たちは何度も見てきました。折れるのは工事の前です。始まってすらいません。
  • 「工期は2週間です」と言われて、本当に2週間で終わると思えましたか。 思えなかったはずです。そして、その不安は正しい。開けてみないと分からない部分が、必ず残っているからです。下地の傷み、配管の状態、シロアリの跡。出てくれば工期は延びます。延びたぶん、仮住まいの家賃も延びます。 不安を持つほうが、実態に近い読み方です。
  • 家族の予定と、工事の予定を合わせるのが難しくありませんか。 受験、介護、繁忙期、法事。全部が空く月は、たいてい来ません。まとめて工事するとなれば、数週間まるごと空ける必要があります。そんな月を探しているうちに、1年が過ぎます。 だから「来年にしよう」になる。そして来年も、同じ理由で同じ結論になります。
  • 近所への説明を、負担に感じていませんか。 大きな工事ほど、音も車も増えます。資材の搬入があり、職人の人数も増える。挨拶に回る範囲が広がります。工事が終わったあとも、その関係は続きます。 長く住む場所ほど、ここは無視できません。1部屋ずつなら、車は1台、範囲も両隣で収まります。
  • 「今のうちにやったほうが安い」と言われて、逆に警戒しませんでしたか。 その警戒は正しいです。急がせる言葉は、たいてい売る側の都合です。決算、キャンペーン、職人の空き。本当に急ぐ理由があるなら、それは値段ではなく、傷みの進み方の話であるはずです。 進み方の説明がないまま「今なら安い」だけが来たら、いったん止めて構いません。
  • 相談したあと、連絡が来なくなった経験はありませんか。 小さい工事は後回しにされます。事業として、理解はできます。金額の大きい案件が優先されるのは、どの業界でも同じです。ですが、後回しにされた側は「相談しても無駄だ」と学びます。 その学習が、次の相談を止めます。止まっているうちに、傷みだけが進みます。
  • 結局、何も決まらないまま2年経っていませんか。 その2年で、下地は少しずつ湿気を含んでいます。柔らかくなった部分は、踏むたびに沈み、沈むたびに範囲が広がります。決めなかったことにも、費用がかかっています。 請求書が来ないだけです。目に見えないところで、直す範囲だけが増えていきます。

直す順番を変えるだけで、費用は下がります

直す順番を変えるだけで費用が下がることを示す見出し画像

範囲を決める基準は、部屋の広さでも、傷みの大きさでもありません。順番です。

リフォームには順番があります。下から上へ、内側から外側へ。床と配管が先、壁紙は最後。ほとんどの方は壁紙から相談されます。その感覚は、間違っていません。 見た目が大きく変わり、金額も想像しやすい。実際、仕上がったときの満足度がいちばん高いのも壁紙です。毎日見ているのも壁です。ですから、そこから考えるのは自然なことです。ですが、順番を逆にすると、同じ工事を二度払うことになります。

以前、壁紙を先に貼った家がありました。落ち着いた色を選ばれて、仕上がりも良く、喜んでいただきました。半年後、同じ部屋の床が鳴りはじめました。 床の下地を直すには、壁の下の部分を開けます。開ければ、貼ったばかりの壁紙に切れ目が入ります。部分的に貼り直すと、そこだけ色が違って見えました。同じロットの在庫は、もうありませんでした。半年で日焼けした面と、新しい面が並ぶ。結局、その部屋を全部貼り直しました。施主は、同じ壁紙代を二度払ったことになります。 二度目は請求しませんでしたが、時間と手間は戻りません。順番を先に説明していなかったのは、こちらの落ち度でした。

なぜこうなるのか。壁の中を、いろいろなものが通っているからです。

配管、配線、下地の木材。床を直すときも、水まわりを替えるときも、壁を開けずに済ませることはできません。これは工法の選択ではなく、家の構造そのものの話です。どの職人が施工しても、どの会社に頼んでも同じです。だから壁紙は、他のすべての工事の「あと片づけ」にあたります。 最後に貼れば、どの工事の跡も一度で隠せます。先に貼れば、跡が出るたびに触ることになります。なお、ここでは公的な統計を挙げていません。根拠として確認の取れた調査を、僕たちが持っていないためです。 数字の代わりに、現場で起きることだけを書いています。

総額を押し上げているのは、材料費ではありません。二度手間です。 そして二度手間は、順番を守るだけで消えます。 実際、同じ部屋を同じ材料で直しても、順番次第で総額は変わります。床から入れば、壁を開けるのは1回です。壁紙から入れば、開ける工事がもう1回増えます。増えるのは解体と復旧の手間で、材料の量は変わりません。 見積書を並べたときに材料費だけを比べると、この差は見えません。比べるべきなのは、壁を何回開ける計画になっているか、です。

開ける回数は、見積書の工程表を見れば数えられます。「解体」「下地補修」「復旧」という言葉が何回出てくるか。同じ部屋で2回以上出ていたら、順番を見直す余地があります。専門知識は要りません。同じ言葉が繰り返されているかどうかを見るだけです。 これは、どの会社の見積書でも同じように使えます。

  • なぜ、床が先なのか。 床の下地は、家の中でいちばん湿気を吸いやすい場所にあります。地面に近く、水まわりに接し、人が毎日踏む。この3つが重なる場所は、ほかにありません。傷みは必ずここから始まります。 上から直しても、原因は下に残ったままです。原因が残っていれば、同じことがまた起こります。
  • なぜ、配管を床と同時に見るのか。 床を開けたときにしか、配管は見えません。閉じてから「やはり替えましょう」となれば、もう一度開けることになります。開ける工事は、それ自体が費用です。 材料費ではなく、手間の費用です。見えるうちに見ておけば、その費用は1回で済みます。見るだけなら、追加はかかりません。
  • なぜ、壁紙が最後なのか。 壁紙は、他のすべての工事のあと片づけにあたるからです。最後に貼れば、どの工事の跡も一度で隠せます。先に貼れば、跡が出るたびに触ることになります。順番だけの問題で、技術の問題ではありません。 ですから、どの会社に頼んでも同じ結論になります。
  • 「ついでに」が高くつく理由。 ついでにやると安いのは、同じ場所を同じ時期に触る場合だけです。順番の違う工事をまとめても、安くなりません。むしろ、やり直しの分だけ高くなります。 「まとめると安い」と「順番を守ると安い」は、別の話です。ここは混同されやすいところです。
  • 見た目から直したくなる気持ちは、正しいです。 毎日見ているのは壁だからです。床は見ていません。踏んでいるだけです。ただ、鳴っているのは床です。見えるものと、傷んでいるものが、たまたま一致していないだけです。 感覚が鈍いわけではありません。見えないものに気づけないのは、当たり前のことです。
  • 順番を守ると、途中は退屈です。 床を直しても、写真に撮って人に見せたくなる変化は起きません。工事の前と後で、部屋の見た目はほとんど同じです。変化が見えるのは最後です。この退屈さを、先にお伝えしておきます。 知らずに始めると、「お金を払ったのに何も変わらない」と感じます。
  • その代わり、払う回数が一度で済みます。 二度手間が消えると、同じ範囲を直しても総額が下がります。値引きではありません。無駄がなくなるだけです。 ですから、この効果は僕たちに頼まなくても得られます。順番の話は、持ち帰っていただいて構いません。
  • 順番は、途中で止めても崩れません。 床まで直して、壁紙は来年にする。これができるのが、この順番の利点です。逆の順番だと、途中で止めたときに壁を開けた跡が残ります。止められる形にしておく意味は、ここにもあります。 予算の都合は、途中で変わるものです。
  • 他社に頼むときも、この順番は使えます。 僕たちに頼まなくても構いません。「床と配管が先、壁紙は最後」とだけ伝えれば、二度手間の費用は避けられます。相見積もりを取るときも、この順番で揃えると比較が正確になります。 範囲も順番も違う見積書を3枚並べても、比べようがありません。
  • この順番に、特別な技術は要りません。 誰が施工しても同じです。差が出るのは腕ではなく、どこから手をつけるかの判断です。判断は、工事が始まる前に終わっています。 現場に入ってから気づいても、もう順番は動かせません。だから、相談の最初にこの話をします。

選ぶ基準は、安さではなく「途中で止められるか」です

選ぶ基準は途中で止められるか、と書かれた見出し画像

新しい順番に立つと、業者の選び方も変わります。見るべきなのは、規模でも見積もりの安さでもありません。「途中で止められるか」です。

止められる形になっているかどうかで、あとの自由度がまったく変わります。工事が始まってから、家族の事情は変わります。転勤、入院、進学、勤め先の都合。まとめて契約していると、そのときに動けません。1部屋ずつであれば、そこで区切れます。そして区切った時点で、そこまでは仕上がっています。 家じゅうを開けたまま止まる、ということが起きません。

僕たちのやり方は単純です。1部屋を決めて、そこだけ仕上げる。終わったら、次の部屋を決める。工事は平日の日中だけ。朝に入り、夕方に出ます。その日の作業範囲は、帰る前に必ず片づけます。 ほこりの出る作業は、ビニールで仕切ってから始めます。家具は部屋の中で寄せて養生し、運び出しません。以前、2部屋目の途中でお父様が入院された家がありました。1部屋目は仕上がっていたので、そこで止めました。半年後に連絡をいただき、続きから再開しました。 途中の状態で放置された部屋は、ひとつもありませんでした。家じゅうを開けた状態で止まっていたら、こうはいきません。

この形には、金額の面でも効き方があります。3桁万円の決断を1回するのではなく、その4分の1くらいの決断を、間を空けて重ねていく。 予算を年度でまたげます。今年はここまで、来年はここから。ボーナスや退職金の時期に合わせて区切れます。借入をせずに進められる方が増えます。金利は、工事費に含まれない費用です。そして、最初の1部屋は「試すための部屋」にもなります。仕上がり、片づけ方、連絡の速さ、約束した日に来るかどうか。合わないと感じたら、そこで終われます。 全体をまとめて頼むと、この確認ができません。確認できたときには、もう終わっています。

途中でやめても、そこまでは仕上がっている。この一点が、あとの自由を作ります。 この形にすると、こちらの側にも縛りが生まれます。1部屋ごとに評価されるので、次を頼んでいただけるかどうかが毎回かかっています。まとめて契約していれば、途中で手を抜いても最後まで工事は続きます。 分けて頼まれていると、それができません。施主にとっての「止められる」は、こちらにとっては「毎回試される」ということです。この緊張は、必要なものだと思っています。

だから、1部屋目にいちばん手をかけます。いちばん傷んだ部屋ではなく、いちばん長くいる部屋から始めていただくのも、同じ理由です。毎日通る場所が変われば、仕上がりの良し悪しはすぐ分かります。 分かる場所から始めるほうが、こちらとしても正直に働けます。分からない部屋から始めるのは、お互いのためになりません。

  • 「途中で止められるか」を、なぜ基準にするのか。 工事が始まってから、家族の事情は変わります。転勤、入院、進学。止められない契約だと、そのとき困るのはあなたです。止められる形にしておくのは、保険に近い判断です。 使わずに済めば、それでいいのです。使う事態にならないことを、こちらも願っています。
  • 1部屋ずつだと、職人の腕が見えます。 最初の1部屋は、試すための部屋でもあります。仕上がり、片づけ方、連絡の速さ、約束した時刻に来るかどうか。合わないと感じたら、そこで終われます。 全体をまとめて頼むと、この確認ができません。分かったときには、工事が終わっています。
  • 見積もりの読み方が変わります。 範囲が小さいと、書いてあることを最後まで読めます。家じゅうの見積書は、枚数が多くて読み切れません。読み切れないまま押印することになります。読めない見積書は、信用のしようがありません。 信用できないものに、三桁万円は出せないはずです。
  • 家具を運び出さずに済みます。 部屋の中で寄せて養生します。運び出すと、保管場所と往復の手間が発生します。トランクルームを借りれば、月々の費用もかかります。1部屋なら、寄せるだけで足ります。 大きな家具は、動かすほど傷みます。動かさないのがいちばんです。
  • 音の出る日を、選べます。 在宅勤務の会議がある日、受験生が家にいる日、来客のある日。1部屋ずつなら、日程を細かく合わせられます。全体工事では、この調整ができません。 工程が全部つながっているので、1日ずらすと後ろが全部ずれます。ずらせない予定のほうが、こちらに合わせることになります。
  • 近所への影響が小さく収まります。 車の台数も、資材の搬入も少なくて済みます。挨拶に回る範囲も、両隣で収まります。長く住む場所ほど、ここは無視できません。 工事が終わったあとも、暮らしは続きます。工事のあいだだけ我慢してもらう、という考え方は取っていません。
  • 予算を年度でまたげます。 今年はここまで、来年はここから。ボーナスや退職金の時期に合わせて区切れます。借入をせずに進められる方が増えます。金利は、工事費に含まれない費用です。 見積書には出てきませんが、総額では大きな差になります。分けられるものは、分けたほうが有利です。
  • 失敗したときの損が小さくなります。 どんな工事にも、想定と違う結果は起こります。色が思ったのと違った、動線が使いにくくなった。1部屋なら、やり直しの範囲も1部屋です。全体をまとめてやると、やり直しも全体になります。 そして、やり直しの費用は誰も見積もっていません。
  • 「今回やらないこと」が明確になります。 範囲を決めるということは、やらない範囲を決めるということです。次に何をやるべきかが、工事のたびにはっきりします。これが次の判断を軽くします。 何も決まっていない状態から考え直すのと、続きから考えるのとでは、必要な時間が違います。
  • この進め方を、僕たちが発明したわけではありません。 昔の職人は、傷んだところから順に直していました。まとめて工事する形が広まったのは、住宅設備の販売と一緒になってからです。元の形に戻しただけです。 新しい工法でも、特別なやり方でもありません。だから、どこに頼んでも再現できます。

工事が終わったあと、あなたの家で何が変わるか

工事のあとに何が変わるかを示す見出し画像

変わるのは、床の音だけではありません。その場所を、意識しなくなります。

音が消えて数日すると、そこを踏むときに構えなくなります。構えなくなって初めて、2年間ずっと構えていたことに気づきます。毎日、何十回も通る場所です。意識せずに歩けるようになるというのは、思っているより大きな変化です。そして同時に、「あとから増えるかもしれない」という不安が消えます。 工事中ずっと持ち続ける、あの落ち着かなさです。

ある家では、工事のあと、奥様がこう言われました。「洗面所に行くのが、ふつうになりました」。それまでは、夜中に起きて洗面所へ行くとき、音で家族を起こさないように歩幅を変えていたそうです。 2年間、無意識にやっていた。工事の目的は床の下地の補修でした。見積書に書いたのは、補修する面積と、使う材料と、日数です。ですが、その方が受け取ったのは別のものでした。夜中に気をつかわなくてよくなった、という話です。僕たちが売っていたものと、買われていたものが違いました。 それ以来、見積書に「今回やらないこと」を書くようになりました。何を直すかより、どこまで暮らしが戻るかのほうが、伝えるべきことだと思ったからです。

不安のほうも、仕組みで消せます。想定される追加分まで含めて、最初にお出しするからです。

床をはがしたら下地が思ったより傷んでいた。開けてみたら配管が古かった。現場では実際に起こります。ですから、開けたときに何が出てくる可能性があるか、その場合いくらになるかを、先に書いて渡します。上限が決まっていれば、開ける前に判断できます。 そして、出てこなければ、その分は請求しません。見積書の金額は、確定額ではなく上限です。ここを取り違えると、他社の見積書と比べたときに判断を誤ります。安く見える見積書は、追加が書かれていないだけ、ということがあります。

「思っていたより高くなった」を、僕たちはいちばん避けたいと考えています。

家が新しくなるわけではありません。戻るのは、気にせず暮らせる状態のほうです。 新しくすることと、戻すことは、目指す先が違います。新しくするなら、傷んでいない部分も含めて交換したほうが仕上がりは揃います。戻すなら、傷んだ部分だけで足ります。費用の差は、この一点から生まれます。 どちらが良いかは、その家に何年住むつもりかで変わります。あと20年住むなら新しくする判断もありますし、いまの暮らしを続けたいだけなら、戻すほうが理にかないます。

どちらを選ぶかは、見積もりを見てから決めていただいて構いません。両方の金額を並べてお出しすることもできます。片方しか出さないのは、選ばせていないのと同じです。 決めるための材料が揃っていない状態で「どうしますか」と聞かれても、答えようがありません。並べて、比べて、それから決めていただきます。

  • 見積書に、やらないことが書いてあります。 「今回やらないこと。それはいつやるべきか」を、最後の一行に書きます。これがないと、次にまた「まず全体を見ましょう」から始まってしまいます。次に相談するとき、その一行が出発点になります。 一から説明し直す必要がありません。前回の続きから話が始まります。
  • 水を止める日が、先に決まっています。 洗濯とお風呂の予定を組めます。当日になって「今日は水が使えません」と言われることがありません。前日までにお伝えします。予定を立てられることが、在宅で過ごすための条件です。 何が起きるか分からない家に、人はいられません。
  • その日の写真が、毎日届きます。 鍵をお預かりする場合は、作業内容と一緒にお送りします。家にいなくても、何が進んだかが分かります。あとで見返せる記録にもなります。 壁の中がどうなっていたかは、閉じてしまえば二度と見られません。次に直すとき、その写真が図面の代わりになります。
  • 開けたあとの追加が、金額の上限つきで書かれています。 「下地が傷んでいた場合、最大でいくら」という形です。上限が決まっていれば、開ける前に判断できます。現場で急に判断を迫られることがありません。 職人が待っている前で決めるのは、誰にとっても良い決め方ではありません。
  • 出てこなかった分は、そのまま下がります。 想定して見積もった追加が発生しなければ、請求しません。見積書の金額は、上限であって確定額ではありません。ここを取り違えると、他社との比較を誤ります。 追加を書いていない見積書のほうが、紙の上では安く見えます。
  • 1部屋が終わった時点で、次を決めなくて構いません。 続けて頼む前提の契約にしていません。1部屋で終わっても、こちらから連絡を重ねることはありません。次に必要になったとき、思い出していただければ十分です。 営業の電話が来ないことも、選ぶ理由になると思っています。
  • 相見積もりを取っていただいて構いません。 むしろ、順番の話だけを持って他社へ行っていただいても構いません。同じ順番で見積もれば、比較が正確になります。範囲も順番も違う見積書を並べても、比べようがありません。 比べられる形にすることが、こちらの仕事だと思っています。
  • 図面がなくても進められます。 築年数の経った家では、図面が残っていないことがよくあります。引っ越しで紛れたり、建てた会社が無くなっていたり。現場で測って、その場で書きます。図面探しから始める必要はありません。 探して見つからないと、それだけで気持ちが折れます。
  • 見積もりのあとに、断りの連絡を入れる負担をかけません。 返事がなければ、そのまま終わりです。追いかけの電話はしません。断るのが億劫で相談しない、ということが起きないようにしています。 相談の入口を軽くしておかないと、傷みが進んでからしか声がかかりません。
  • 金額だけでなく、日数の内訳も書きます。 何日目に何をするか。ここが書かれていると、途中で「今どこまで進んでいるのか」が自分で分かります。進み具合を聞くための電話が要りません。 聞かないと分からない状態は、それだけで負担になります。
  • 見積書は紙でもデータでもお渡しします。 家族に見せて相談される方が多いためです。その場で決めていただく必要はありません。持ち帰って構いません。考える時間は、判断の材料のひとつです。 その場で決めさせる売り方を、僕たちは取っていません。
  • 相談だけで終わっても構いません。 見積もりを見て、今年はやめておく、という判断でよいのです。順番さえ決まっていれば、来年でも再来年でも、同じところから始められます。決めた順番は、時間が経っても古くなりません。 家の構造は変わらないからです。

手に入るものを、改めてまとめます

手に入るものをまとめた節の見出し画像

ここまでにお伝えしたことを、並べ直します。新しい話は足していません。

  • 引っ越しの要らない工事の進め方。1部屋ずつ、平日の日中だけ
  • その日の作業範囲は、帰る前に必ず片づけます
  • ほこりが出る作業は、ビニールで仕切ってから始めます
  • 家具は部屋の中で寄せて養生します。運び出しません
  • 水を止める日は、前日までにお伝えします
  • 鍵をお預かりしての施工。その日の作業内容と写真が毎日届きます
  • 下から上へ、内側から外側への順番。二度手間の費用が消えます
  • 想定される追加分まで含めた、最初の見積もり
  • 追加は金額の上限つき。出てこなければ、その分は請求しません
  • 「今回やらないこと。それはいつやるべきか」を書いた最後の一行
  • 何日目に何をするかの、日数の内訳
  • 図面が残っていなくても、現場で測って進められます
  • 1部屋からのご依頼を承ります。次を決める必要はありません
  • 相見積もりを取っていただいて構いません。順番だけ持ち帰っても構いません
  • 見積もりを見て、見送るという判断でも構いません。追いかけの連絡はしません

廊下を歩いて、印をつけてください

廊下を歩いて印をつけてくださいと書かれた見出し画像

やっていただきたいことは、一つだけです。

廊下を、端からゆっくり歩いてください。 音が鳴る場所、沈む感じがする場所で立ち止まって、そこに養生テープで印をつけてください。それだけです。

以前、この印を持って相談に来られた方がいました。廊下に3か所、洗面所の入口に1か所。テープが貼られたまま、写真を撮ってこられました。その場で範囲が決まりました。 見に行く前に、どこを開けるかが分かっていたのです。ふつうは、現地で1時間かけて探すところから始まります。歩いて、聞いて、また歩く。その1時間が要りませんでした。見積もりは、その日のうちにお出しできました。

印がある家と、無い家では、出せる見積もりの精度が変わります。「なんとなく床が気になる」と言われた場合、僕たちは家じゅうを見ます。見る範囲が広いほど、見積もりは大きくなります。 意地悪ではありません。分からない部分は、安全側に見積もるしかないからです。一方、「廊下のここからここまでが沈む」と分かっていれば、そこだけを見ます。範囲が決まっていれば、余計な数字を足す理由がありません。印をつけるという作業は、見積もりを小さくするための作業です。

道具も費用もかかりません。歩くだけです。印をつけたら、そのままご連絡ください。 その日のうちに範囲をお伝えし、見積もりは後日お渡しします。


追伸。

このやり方に変えたのは、打ち合わせの席で同じ言葉を何度も聞いたからです。「やっぱり今年はやめておきます」。

そのたびに、直したい気持ちが無かったわけではないと分かっていました。大きすぎる前提を、こちらが最初に置いてしまっただけです。 家じゅうを見て、家じゅうの金額を出す。丁寧な仕事だと信じていました。丁寧だったのは、こちらの都合のほうでした。

家は、まとめて直さなくてもいい。1部屋ずつでいい。そのほうが、暮らしを止めずに済む。当たり前のことに、僕たちが後から気づきました。

僕たちがやりたいのは、家を新しくすることではありません。住んでいる人が、家のことを考えずに暮らせる状態に戻すことです。 床の音を気にしながら、夜中に歩幅を変える。その状態から降りていただく。工事は、そのための手段にすぎません。手段が目的より大きくなったとき、人は動けなくなります。

いま、あの音が鳴っている家に住んでいる方へ。

その音は、2年経っても勝手には止まりません。 ですが、止めるのに家をたたむ必要はないのです。廊下の3メートルから始めて構いません。

リハーサル工房